桜 さくら
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


歳月や日時、時間という代物は、
概念的には同じのはずが、
だのに、人によって
長さへの体感が微妙に違うから不思議なもので。
苦手なことに身を置いてると、途轍もなく長く感じるのに、
楽しいことだと あっと言う間に過ぎてしまったり。
子供のうちは、一年や半年や1カ月が物凄く長く感じたはずが、
大人になってしまうと、2年3年があっと言う間になってたり……。





 「…………………あ。」


足早に通過しかけていたその途上、
何に気づいたか、金の髪したお友達が足を止めたので。
どうかしましたかと同じように立ち止まり、
彼女を振り返った視野の中、
あらぬ方へと向いている紅玻璃の眸の向いたほうを辿ったところが。
丁度その間合いへ、さわと吹いて来た風に揺すられて、
緋白の花をたわわにまとった伸びやかな梢が、
ゆったりと上下している様だったのが。
ともすれば、
優雅にも“おいでおいで”をしているように見えており。

  「うあ、ほぼ満開じゃないですか。」

後から追いついたもう一人のお友達の上げたお声で、
はっと我に返った白百合さんが。
そんな彼女と、もう一人、
最初に立ち止まった紅バラさんのいる方へと視線を戻せば。

  「……………。」

時折、思わぬ強さの風が吹き抜けては、
彼女もまた、その軽やかな金の髪を掻き回されながらも。
凛然と冴えた横顔も、そこへと宿る紅色の双眸も、
さして揺らぐことはないまま。
校舎裏という目立たぬところに咲いてた桜を、
それは真っ直ぐ見据えておいでの久蔵殿だった。




      ◇◇



今日はといえば、
女学園高等部の入学式…の準備が粛々と進められており。
特に立候補した訳でもなかったが、
剣道部の代表として、
主将の草野七郎次さんが準備委員になったとあって、
だったら俺も手伝うと、三木久蔵さんが申し出たもんだから、
なら私もと、林田平八さんが挙手して見せた。

 『だって、お二人ともそっちにかかりきりになるんじゃあ、
  遊び相手がいないってもんじゃないですかvv』

単なるクラスメートや顔見知りなら たんといるけど、
お互いの好みやクセや、
次にどう出るか、
その“それっ”と駆け出すときの呼吸までもを、判り合ってる間柄。
ともすりゃ 家族より息が合うかも知れぬ“親友”だものと。
学校での行動に留まらず、
休みの日にもわざわざ顔を合わせちゃあ、
一緒になって行動している彼女らだから。
授業には関わりのない、学校行事への実行委員会であれ、
一緒に参加しなくてどうしますかというノリになる。

 “でもでも、ご不浄には ちゃんと一人で行きますが。”
(おいおい)

仲間外れは嫌ですよぉと言いながら、
何でもかんでもべったり一緒…でもなくて。
今日だって、講堂へと集合すると、
あっと言う間に別々の班へと振り分けられてた彼女らで。
美術部でも名うてのマルチプロデューサーな平八は、
講堂と父兄控室とへ飾る、
生け花や絵画のチョイスと準備を任されているし。
合唱部の伴奏係でもある久蔵は、
式で合唱する校歌や賛美歌へのピアノ伴奏を任されている。
本来の委員である七郎次はと言えば、
各所への連絡係を担当しており。
今も、統括からの連絡事項を携えて、
正門の傍らへと設けられている受付に、
向かうところ…だったのだけれども。
新入生と父兄へと、
祝辞を述べつつお花の付いたリボンを留めて差し上げて。
では控室はこちらです…と、
新入生と父兄とのそれぞれを誘導する係へと、
粗相の無いよう、また、お知らせすることへの遺漏が無いようにと、
最終的な打ち合わせをしに行くところ。
久蔵が一緒になったのは、
伴奏用の楽譜と一緒に、
昨年の入学式で新入生へと贈った、胸飾りのお花の残りが出て来たの、
受付係に練習に使ってもらうといいと、持ってくように頼まれたからで。
ひなげしさんに至っては、
ちょっとだけ手が空いてたもんだから、
仲良しさんたちに合流しようと追っただけ。
校舎の奥向きに位置する講堂から、
芝生の奇麗な前庭を横切っての正門までと、
向かう進路は多々あって。
日頃ならば校舎経由でしか行き来はしないが、
今日ばかりは色々と特別だったので、
そういえば、
渡り廊下の終点から校舎の大外を回って行った方が早いと気づいて、
普段は通らぬ、道もない経路を選んだまで。
案の定、犬走りと呼ばれるコンクリートの打ちっ放しになったポーチの際を、
伸び放題の芝草が覆いかぶさっての曖昧にしており。
とはいえ、
さすがにお掃除は徹底していて泥や砂はかぶってはなく。
お行儀は悪いけれど急いでいるのでごめんあそばせと、
速足の駆け足で、一気に駆け抜けようとしかかった…筈が、


  「………きれいですねぇ。」
  「……。(頷、頷)」
  「そういえばそろそろ、時期ではありましたものねぇ。」


先行していた二人が、
何故だか明後日の方を向いてるの、
おややぁ?と不審に思いつつ。
視線の先はと、七郎次がそうしたのと同じこと、
してみたらしい ひなげしさんも加わって。
お揃いのセーラー服の、
濃紺の襟やらスカートの裾やらを、
悪戯な風にあおられての、時折はためかせつつも。
この春お初になろうかという桜から、
視線はどうしても外せないでおいでな三人のようであり。
特に変わった品種ではなさそうながら、
それでも…練り絹のようなとはよく言ったもの。
奥行き深い、ビロウドのような印象を、
触れもさせずの視覚へと
十分に伝える緋白の桜花が。
みっちりと分厚く、取り巻くように、
伸びやかな枝へ咲き揃っており。

 「……………………。」

ひなげしさんが言ったよに。
そういえばそろそろ時期ではあったが、
先の冬もまた、昨年同様なかなかに長っ尻だったその上。
寒の戻りなんてな可愛らしいものじゃあないほどに、
10度もの格差で気温が乱高下する現象も頻繁で。
そんなこんなな気まぐれな気候に振り回されつつも、
日 一日と春本番が近づきつつあったそんな矢先に、
途轍もないことが起きてしまったので。

  そういえば、あちこちの桜の名所でも
  お花見は自粛してくださいって呼びかけてるそうですよ。

  そうみたいですね。

ニュースでヘリからの上野公園って映像を観ましたが、
桜の木の下のどこにも、
ブルーシート敷いてなかったのが何か新鮮で…と。
七郎次が視線はそのままで呟けば、

 「自粛……。」

あらためて呟き直したのが久蔵で。
そのお声の低さを案じ、
七郎次と平八が、左右からという格好で、
んん?と、寡黙なお嬢さんを見やったところが、

 「では、こうして眺めるのも?」

ダメなのかなぁと、
けぶるような金の前髪の下、
細い眉を八の字に下げる素直さよ。
迷子になった子犬のような、
何とも心許ないお顔になるのにこそあたふたしかかり、

 「ああ いえいえ、
  こういうのは構わないと思いますよ?」

かぶりを振っての“大丈夫”と、
安心させるよう言って差し上げた七郎次の後を引き取り。
平八もまた、こちらは大きくうなずいてやり、

 「そうそう。」

寒かった冬を乗り越えて、
せっかくあんなに綺麗に咲いたのに、
ちいとも見てもらえないなんて、桜にだって気の毒ですよと。
目許を殊更にたわめ、にっこしと微笑ったひなげしさんだったのへ、
ついつい釣られてだろう、
その口許が うっすらとほころんだ紅バラさんなのがまた、

 「うあ久蔵ったら、かぁわいいvv」
 「〜〜〜〜〜〜っ。//////」
 「こらこら、シチさん。」

きゃ〜いvvとはしゃいでのこと、
こちらさんは しなやかな直毛の金絲を軽やかにたなびかせ、
駆け寄ったそのまま、無口なお友達へと抱きつく白百合さんであり。


  誰かに見とがめられますよ。
  いいも〜んvv 久蔵ったら やあらか〜いvv
  ……………。/////////(えっと・うんと…)
  誤解されて困るのは勘兵衛さんだけってですか?
  ……そんなすっぱり言わないの。///////


ほかほか暖かなお日和は、もうすっかりと春のそれ。
被災された東北や北関東の皆様にも、
このやさしい暖かさが早く届くといいのにね。
風に揺れる桜の姿、早くお目見えすればいいのにね…。





   〜Fine〜  11.04.06.


  *東日本大震災の被害に遭われた方々に
   心からのお見舞いを申し上げますと共に、
   一日も早い復興と皆様のご健康をお祈りしております。

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